「BIOMBO/屏風 日本の美」展(大阪市立美術館)

http://osaka-art.info-museum.net/special019/special_biombo.html

東京のサントリー美術館でも開催されていた展覧会の巡回。
今月16日まで。会期終了間際になってしまいました。


先月狩野永徳展に行って来たところだけど、こちらの屏風も面白かった。
いろいろさまざまな画風が集められているなか、特に好きだったのは《柳橋水車図屏風》。
長谷川派らしい簡素で繊細な感じがする。
先々月読んでいた辻 惟雄さんの『日本美術の歴史』の影響もあって、

日本美術の歴史

日本美術の歴史

《十界図屏風》みたいに鬼や妖怪が登場するものもじっくり楽しめるなあと思う。
ボストン美術館サントリー美術館で離ればなれになっていた雌雄の麝香猫が対面する
《松下麝香猫図屏風》《樹下麝香猫図屏風》はにっこり眺めてた。


図録を確認していると、展示替でみれなかった作品の中にも興味深いものがあったのに気付く。
なかなか予定が組めないこともあるけど、少しずつ古美術の鑑賞も積み上げていこう。


天王寺公園のゲートから美術館までの道で、必ず猫にであう。
この日は4匹もうろうろしてた。

「森のなかで」展(和歌山県立近代美術館)

syn_chron2007-12-01

今日は南海電車で和歌山へ。
特急サザン。海岸沿いを通り、紅葉した山間を抜けて行く列車。
行き着いたのは森をテーマにしたグループ展でした。
http://www.bijyutu.wakayama-c.ed.jp/exhibition/morinonaka.htm

ここにコメントをくださっている方からお勧めしていただいた高木正勝さんが参加されていて、
(すっかりはまっています)この方の作品を観るのが今回の目的だったのです。
《Tidal》という新作は、回転している少女たちの顔の表情と絡み合う髪を捉えた映像。
高木さんは、夜の熊野本宮大社の境内で、風に揺れる杉からインスピレーションを得たそう。
映像には「森」は一切映らないのだけれど、でも少女の表情や髪は「森」なんだと感じる。
展示室1室が暗室になっていて、
私はそこの中心に敷かれたクッションに座りこんで、目の前のスクリーンをじっと見つめてた。
他に《Bloomy Girls》《el viento》も合わせて3回ほど。
もちろん作品の映像は私の目の前で心地よく流れていく。
でもなんなんだろう?他のある絵画作品などで、私の見えない足が立ち入ろうとするような、
そんな奥行きが高木さんの映像にはみえてこないんだ。
Podcastで配信されているtamabi.tvでの高木さんと中沢新一さんのやり取りが頭にあるせいか、
ヒトが意図して視覚化できる世界の限界を感じてしまう。
それはただ私がこれからの映像を呑み込むことができていないだけなのかもしれないけど。
それにざらざらとした違和感を感じさせるものは、それだけ惹き付けられているということなんだと思う。


他に気になった作品のことを。
栗田宏一さんの《ソイル・ライブラリー/和歌山》は、
和歌山県内108箇所で採取された「土」をそれぞれガラスの小瓶に詰めた作品。
土ってアンバー系の色だけじゃなくて、微かにピンク色だったり青っぽかったりするんだ。
それらがきれいなグラデーションになって一列に並んでいる。
栗田さんは今回の展覧会に伴うワークショップも行っていて、
地元の子供さんたちと土を採取して作品づくりをされたそう。
その模様を伝える「わかやま新報」の記事のコピーが会場にあって、栗田さんの言葉を書き留めておいた。
「遠くに行かなくても自分の足元に不思議なものや美しいものがある。
『まず自分の足元を見よう』ということを、美術の力で伝えたい。」


銅金裕司さんの《粘菌プラントロン》。
「プラントロン」は植物の体内を流れる微細な電流をコンピューターにより音へと変換する装置で、
会場では和歌山の博物学者・南方熊楠にちなんだ「粘菌」の生態をセンサーで感知させ、スピーカーからの音で表現。
このセンサーは周囲の人間の動きにも反応するので、粘菌と人間、お互いの存在の交感が試みられている。
と書いていてもなかなかうまく説明できないので、以下の作家の方のページを参考にどうぞ。
http://wiki.livedoor.jp/dogane/d/FrontPage

同様のシステムで、美術館の2階テラスでは《ナギ・プラントロン》が設置されていた。
「ナギ」とは、熊野速玉神社のご神木である梛の木。
下の映像はなんともうまく撮れていないのだけど、音声の方に注目してみてください。
http://video.google.com/videoplay?docid=-4840704290898244925&hl

音声はなにか別のサンプルを置き換えているのだろうけど、樹々のおしゃべりがこんな感じだったら微笑ましい。
ご神木ではなくてただ普通の木、たとえば美術館横の落葉のすすむ樹々たちの声をきいてみたいと思った。





内藤廣さんの講演会(JIAまちづくりセミナーin綿業会館)

早めに退社して隣の駅の綿業会館へ。
今夜は数ヶ月前から楽しみにしていた内藤廣さんの講演会が行われたのです。


お話で一貫していたのは、近刊の『内藤廣対談集-複眼思考の建築論-』の紹介文でも書かれている
「建築家になろうとしてはいけない」という視点だった。

  • 建築学部に進みながら武装解除人の道を選ばれた伊勢崎賢治さん。
  • 世界紛争で悲惨な状況を目にした7、8歳ほどの子供たちが、将来なりたいものに医者や教育者を挙げていること。(NHKドキュメンタリー「戦争でパパを失って」)
  • 東京大空襲の焼け野原になにをつくるかという戦後の話のときに、大谷幸夫氏が「建築は人間の生存に関わるものです」と言われたこと。(INAXのインタビュー)
  • コロンビアのスラムにある図書館を見学した際に、子供達が夜遅くまで、そして施設に感謝しながら利用している光景に出会ったこと。(内藤さんも別のスラム地域の図書館の設計に関われるそう)

そこで内藤さんは、建築はもっと切実なところにつながって立ち上がるものじゃないか、
人間の尊厳の深いところにつながっているのが建築の在り方じゃないかと問題提起される。
"現在の日本には先に挙げられた深刻な状況がないように思われるけれど、
実は「戦場は間近にある」のであって、過疎化が進む地方都市はまったなしで悲鳴をあげている。
今の建築家たちは目線が違うんじゃないか。
地方の精神的・経済的な問題を解決して、
その都市の誇りとなるような建物を設計することに意義を持つべきじゃないのか。"


内藤さんが'94年頃から取り組まれているプロジェクトに、宮崎県の「日向駅連続立体交差事業」がある。
内藤さんは地場の杉材を使った構造体の駅舎の意匠設計を担当されていたのだけれど、
ワークショップやシンポジウムを開きながら、他分野の専門家と一緒になって、
地域の人が参加できるような状況をつくりあげていったことを、スライドを使いながら説明。
これほど建築・都市・土木がいい形でスクラムを組んだ事例はなかったそう。
私はこのエントリーを書いている途中で、「ひゅうが便り」というブログを見付けたのだけど、
地元の人はもちろん、引率で動いている官の人の姿勢がしゃんとしているように見えた。
むしろ内藤さんたちは、その輪の中のひとつに過ぎないぐらい。きっとこれが理想型。
杉材の屋根梁が組まれている写真も美しいし、木材の場合の安全ネット使いにも興味津々。
結果としてこのJR日向市駅国土交通省鉄道局長賞を受賞。
鉄道開発事業の好例として見学者が訪れているそう。


いい街ができるかどうか?デザイン・意匠になにができるか?
内藤さんが土木に移ったのは建築の概念を広げるためにやっている。
建築っていうのは広い。
モノと人間をつなぐ、テクノロジーと人間心理をつなげるためにあるのだから、
もっと広い視野を持ってやってほしい。
地方の街づくりに情熱を注げる人間が増えればもっと日本は良くなる。


私なりに講演をまとめてみたけれど、力及ばず。
でも内藤さんのおはなしって、設計分野だけじゃなく、もっと一般にも語られるといいのにと思う。



講演の機会に、途中になっていた対談集を読了した。

内藤廣対談集―複眼思考の建築論

内藤廣対談集―複眼思考の建築論


ちょうど再開したページから、《島根県立古代出雲歴史博物館》のシンボルマークランドスケープのデザインを手がけられた方々も登場して、
通勤電車の中、読みながらひとりで盛り上がってた。
なにも分からないまま《福井県立図書館》に興奮していたときを思い出してみたり。
風の丘葬斎場》への気持ちがなお強くなる。
この本も建築コーナーに置かれるだけなのが勿体ないなあ。

《浜田市世界こども美術館》

http://hamada-kodomo.art.coocan.jp/


松江の知人に運転してもらって、少しずつ島根の建築を訪れているのだけど、
今回お願いしていたのは高松伸さん設計の小さな美術館。
位置的にすっと海沿いを走ったらすぐ着くのかなあと思っていたら、
高速道路が途切れていたりして、なかなか大変だった。いつもごめんなさい。
石見銀山へ向かう車の混雑もあったしね。
そういえば《島根県立古代出雲歴史博物館》では金印の展示(実物は11月21日〜12月2日の期間展示)があって、地元の方で大盛況だそう。
この間の参議院選挙では「ハコモノ」の筆頭みたいに写真が載せられていたけど、
オープンして間もないのに勝手な評価をされているのが疑問だった。


浜田市に入ったあたりで雲行きが怪しくなり、到着した頃には雨が降り出した。
山陰らしい変わりやすいお天気。
あまりすかっとした写真は撮れなかったけれど。


設計:高松伸建築設計事務所
竣工:1996年


建物の端から端まで開かれた窓が印象的。


企画展示室の通路。5階から4階へと下るスロープになっている。
通路自体も展示空間に利用されていて、流れるように鑑賞している感じ。



3階常設展示室。



トイレなんだけど、見上げたところが良かったので。
大きな開口の角にあたるところ。



3階隅にある立入禁止場所。
下の写真で見ると、絵がかかっているところの頭のカーブしたところ。

本来意図した用途はなんだったんだろう?
多少危険は伴うのかもしれないけど、気持ち良さそうな空間が想像できてのぼりたくなってしまう。
なんだか空に届きそうな場所に思えてくるのは、窓がカーブの向こうにあるせいかな。



3階フロアの休憩場所。



足元には紅葉した山と、日本海がみえる。
お天気だったらどんな眺めがひろがっていたんだろう。


いちども高松さんの著作にあたったことがなかったので、
関西に帰宅してから『夢のまにまに…』をぱらぱらと読み始めてた。

夢のまにまに夢をみる

夢のまにまに夢をみる

そこで世界こども美術館への途中で横を通り過ぎた《サンドミュージアム》も、高松さん設計だと知る。
世界一の砂時計がある博物館。
真っ暗だった帰り道、ふたつのガラスのピラミッドが美しく光っているのがみえた。
島根だけでも他に高松さんので行ってないがあるし、菊竹さんのも途中になってるし。
助手席から満月がみえていて、そういえばこの3連休は広島の《奥田元宋・小由女美術館》に行く予定も立ててたことを思い出す。
行きたいところがたくさん。

こころの玉手箱・隈研吾

昨日の日経の夕刊の記事。
今週の連載は隈さんだったんだ。知らなかった。
とりあえず4回目「湘南の海」のことを。


子供の頃訪れた、茅ヶ崎の海の思い出などが語られていて、
そこから隈さんの水に関わる仕事へとつなげられている。

建築は重たくて動かないものと考えがちである。ところが水を入れると、とたんに生き物のような柔らかさや弱さ、うつろいに包まれ、窮屈さから解放される。海の家ような建築を作りたい、とつねづね考える。

水際の建築に惹かれる人は多いと思うのだけど、
それがなぜなのか納得できる解を教えてくれる人はまだいないし、
自分でもそれがうまく説明ができない。
隈さんの文章にも実感できるイメージが掴めないけれど、
なんだか私には謎解きのような感じで、こういった書き方はいいなあと思う。
読んでいるものの傾向もあって、小説家にではなく建築家の言葉に惹かれることが多い。不思議。
隈さん自身が冗談で、建築家は仕事がなくて書く時間があるからいい文章が書けるみたいなことを座談会で話されていたっけ。
また10+1が読みたくなった。

10+1 No.38 特集=建築と書物 読むこと、書くこと、つくること

10+1 No.38 特集=建築と書物 読むこと、書くこと、つくること

三沢厚彦 アニマルズ+PLUS(伊丹市立美術館)

syn_chron2007-11-23


(ほんとは11日に行っていたのだけど、
上位に置いておきたかったのでここにエントリー。
後日移動させるかも。)



この日は講演会も聴講して書きたいことがたくさん。
購入した三沢さん関連の2冊の本もしっかり読んでから…とか考えていたら日数だけ経ってしまった。
来月は中之島grafでもドローイング関係の展示がされるようなので、
http://www.graf-d3.com/gm/misawa/index.html
今回はとりあえず感じたままを記しておこうと思う。


三沢厚彦さんは動物をモデルにした作品を中心に制作される木彫作家。
作品には、去年弘前で開催された「YOSHITOMO NARA+graf AtoZ」で出会った。
この展覧会に行かれた方にはよく分かってもらえると思うけれど、
grafの小屋の屋根からきりんが首を出しているようなレベルを効果的に使った大きな作品や、
奈良さんの小屋が並ぶなか、はっと気付くと面白いところに置かれていた小作品が印象的だった。
偶然私の旅行中に三沢さんのレクチャーがあって、旅先で講演を聴くという思い出もできた。
↓読むと長いけれどAtoZボランティアスタッフの方が書かれた記事。
http://harappa-h.org/AtoZ/modules/popnupblog/index.php?param=7-20061103
ここの最後にも書かれているけれど、私はアフガン小屋の犬猫が良かったと思っていて、
それに返してくださった三沢さんの言葉も私の気持ちに響いた。
そして終わりに個展の巡回予定があることを告げられ、待ち望んでいた展覧会が一年越しに伊丹にやってきた。


と、やっと本題に入るところなのだけど、もうそろそろ出かける準備を始めなきゃいけないので…。
私は行けないのだけど、連休中に公開制作ありの三沢さんのギャラリートークがあるし、
来月には俳優の寺田農さんとの対談もあるので、ぜひ観覧を検討してみてください。
http://www.artmuseum-itami.jp/07misawa.html
あと、見忘れる作品がないよう会場は隅々まで眺めておきましょう。あっと気付くことがあるので。


ほとんど撮影禁止だったので、美術館の庭に置かれたチーターを載せておく。



zoom



背中から。しっぽが面白い。



横から。



そういえば三沢さんは神奈川県茅ヶ崎市にお住まいのようで、
湘南の海で流れ着いた漂着物を作品にしながら過ごされてた頃の文章も好きだったのだけど、
どこからの出典だったのか今思い出せないな。
でもこのあとに書こうと思っている隈研吾さんの記事でも茅ヶ崎がキーになっていて、
なんとなくまた気になる場所になってる。重なっていくと思いは強まる。


三沢厚彦 アニマルズ

三沢厚彦 アニマルズ

ANIMALS+ MISAWA ATSUHIKO

ANIMALS+ MISAWA ATSUHIKO