『村上春樹と猫の話』鈴村和成

村上春樹とネコの話

村上春樹とネコの話


猫に関する描写をつなぎ合わせて、村上春樹作品を読み解いていくもの。
でも作者の家で飼われている猫とごっちゃになっていたり、
奥さんと猫の写真を使っていたりするのってどうなんでしょうか?
私も猫は好きなんだけど、猫好きのこういった甘さには辟易としてしまう。
猫自身は割り切りのできたクールな生き物なのにな。


それでもこの評論(?)での収穫はありました。
ひとつは、『剣と寒椿』の抜粋を読んだこと。
存在はきいていたけれど、あえて手にとることのなかった三島由紀夫の濡れ場の描写です。
やっぱり読んだときはすごく腹立たしくなりました。
同性愛ってことが問題じゃなくて、これが異性のことだったとしても、
二人きりしかしらない秘密を書くのって卑怯な感じがします。
でもその点はおいておき、この小説に関するレビューを探していると、
作者の福島次郎はなにかを隠してるんじゃないか、という読了感が残る、というのがあって
きちんと読んでみたくもなりました。
芥川候補になった『バスタオル』という小説も、読みたくないのに読んでしまいたくなるような…。

三島由紀夫―剣と寒紅

三島由紀夫―剣と寒紅


こうやって出会いたくなかったのに会ってしまった小説として、
永井荷風の『四畳半襖の下張』があります。
(一応作者は金阜山人となっています)
私の卒論の研究対象が永井荷風で、
ちょうどユリイカで特集が組まれていたものに掲載されていたのでした。
岩波の全集にもなかったのであえて読むつもりはなかったのですが。
他には芥川が書いたと言われる、
確か『赤い帽子』というタイトルの小説はまだ出会わなくてすんでいます。
これもいつか目にすることがあるのでしょうか…。


もうひとつ『村上春樹と猫の話』から、
同じく三島由紀夫の『午後の曳航』の抜粋があったこと。
猫を残酷に殺しているシーンで、
その克明な描写は三島自身が実際に行っていたのではないかというほど。
私の三島読書は『豊穣の海』4部作を読み終えたところで止まっていて、
あと『潮騒』『仮面の告白』『午後の曳航』を読まなきゃなあという課題をつくっています。
代表作よりも『沈める滝』『美しい星』『鏡子の家』『禁色』なんかの方が好きですね。
特に『沈める滝』の城所昇の非人間ぶりにぞくぞくとしました。

午後の曳航 (新潮文庫)

午後の曳航 (新潮文庫)


『午後の曳航』の抜粋を読んでいると、再び三島熱があがってきそうな気配。