「毛皮のエロス」(テアトル梅田)

関西では今日が封切だった。
http://kegawa.gyao.jp/


写真家ダイアン(作中ではディアンと呼ばせている)・アーバスの伝記ではなく、
彼女をモデルにしてつくられた架空の物語。
写真家の妻で助手を努めていた彼女が、同じマンションに越して来た男性に惹かれていくと同時に、
カメラマンとしての才能を開花させていくお話。
作品の公式サイトや批評とかをみてるといいのかどうか期待薄だったのだけれど、
みてみるとはすっかり作品世界にはまってしまった。


はまってしまった私の心境を分析すると、ただ隣人の男性ライオネスが魅力的だったからかもしれない。
洞察力があって包容力があって芸術的感性に優れていて…。
そういう人と親しくなっていくヒロインを自分に置き換えていただけなのかもしれないと思うと、
こうやって書いているだけで恥ずかしくなるなあ。
男性がきいたら鼻で笑われてしまうような感想だし、
ディアンの行動は、道徳観念の強い女性だったら怒り出してしまうだろうなあと思う。
あと公式サイトの映像にはほとんど出ていなくて映画を観なきゃ分からないけど、
ライオネスが住んでいる部屋のインテリアというか雰囲気にもすごく惹かれた。
美術は誰が担当しているのか、プロダクション・デザインのエイミー・デンジャーでいいのかな。
とにかくライオネスの佇まいとその周囲の空間があまりに強くて印象的だった。


原題は『FUR』なのに邦題ではエロスって言葉がひっついてるのも誤解を生みそうで勿体ないなあと思う。
ディアンの後ろめたい嗜好を拾い上げられていくところとか、
自分の秘密が曝されていくところの方がずっとエロティックな感じがしたかも。
私自身も一緒に突かれているような感覚。
そして最後の方の海の場面では、首筋までつたう程の涙を流してしまってた。珍しく。
関係がなくなることも切ないけれど、私がそのとき観ていたのは作品の映像だけではなくて、
美しいと感じているものが消えていくときの記憶を重ねていたのだった。
一瞬いろんな記憶が波のうねりと共に湧き上がってきた。
そのシーンも良かったので、そのあとの締めくくりが間延びした感じだったのは残念。
もう少しコンパクトにできたんじゃないかな。


感傷的で感覚的な感想を並べてしまいました。
いい映画を観たからしばらくよそうかなあとは思いつつ、
今月は『スケッチ・オブ・フランク・ゲーリー 』と『エドワード・サイード OUT OF PLACE』の予定。
どちらもドキュメンタリーだからいいかな、別に。