シンポジウム「今なぜアスプルンドなのか」(京都工芸繊維大学)

同大学で行われている「建築家グンナール・アスプルンド」展にともなう講演会。
開場してからは人もまばらだったけど、開演間近になると人がいっぱいに。
休憩中に会場風景を撮りました。広めの大学教室ですね。懐かしい。


講師の方は、吉村行雄氏(建築写真家)、川島洋一氏(福井工業大学助教授)、桐原武志氏(建築家)の3名。
吉村氏と川島氏はTOTO出版の『アスプルンドの建築』を共著されている。

アスプルンドの建築 1885‐1940

アスプルンドの建築 1885‐1940


川島氏は《森の墓地》、桐原氏は《夏の家》についてレクチャーしてくださって、
どちらも興味深く聴かせてもらったのだけれど、
一番最初にお話された建築写真家の吉村行雄氏は、声のトーンやお人柄も含めて魅力的な方だった。
スライドの写真(前述の本の写真)が素晴らしいのも良かった。
3回目に撮影に行ってやっと気付いたこともあったと、楽しそうに話される様子が印象的だった。


なんとなく今まで私が感じていたアスプルンドの建築の魅力というのは、
自然と一体となっているところなんだろうなあというぐらいのものだったんだけど、
何度も現地に出向いて撮影されている吉村氏からは、たくさんのことを教えていただいた。
自然と人間への愛以外に、アスプルンドの魅力として挙げられていたのは以下のことで、
3〜5については写真集を眺めたり読んだりしていても気付けなかった。

  1. 3°〜8°/直角ではないプラン
  2. ○と□の組み合わせ
  3. 不揃い
  4. 意外性、ユーモア、トリック
  5. メカマニア(機能美)
  6. ディテール・パーツまでのトータルデザイン

私の持っていたアスプルンドのイメージとは違って意外な感じ。
でもそのあと作品を辿りながら具体的に説明されて納得。
「無意識の領域にまで行き届く配慮」がなされたアスプルンドの建築がますます好きになった。


長くなってしまうけど、吉村さんの講義をメモ。
写真集では書かれていないことも教えてくださったので。

  • 《森の礼拝堂》1920

自然光と蝋燭の灯の使い方が巧み。

  • 《森の火葬場》1940

への字型のベンチ。

  • 《スネルマン邸》1918

初期の作品だが、
既にプラン・エレベーションで直角でなかったり不揃いになっていたりの特徴が。

  • 《リステール裁判所》1921

妻面に円と四角の組み合わせ。

  • 《カール・ヨーハン学校》1924

鈍角を利用して建物を大きく見せる工夫。

階段部分にミラーのトリック。

  • 《ストック市立図書館》1928

(現在増築コンペ中)
巧みにシンメトリーを外している。

1930年代にガラスのエレベーター

  • 《夏の家》1937

煙突の断面が5角形→雨水を逃がす工夫。


微妙な傾斜をつけていたり、直角から振れていたりする特徴は随所にみられている。
アスプルンドが作品について言及することは少なかったようで、講師の方の想像の域には過ぎないけれども、
それぞれの箇所の意義を解説されるたびに、思慮深い配慮に唸らされた。



最後に講師の3方と司会の松隈洋氏で、「今なぜアスプルンドなのか」をテーマにお話しされる。
以下、簡単に要約。
アスプルンドは同世代のミースやコルビュジェ、同じ国のアアルトと比べて知られていない存在だった。
(川島氏は“アスファルト”の研究がんばってください!と声をかけられたこともあるそう)
それはメディアの取り上げられ方のせいでもあるし、
デザインというものが見た目だけで捉えられてきたこともあるのではないか。
3年前大阪で吉村氏が講演をされたときから考えると、今注目を浴びていることが信じられない。
この盛り上がりが一過性の流行で終わらないことを願う。
スウェーデンという国は(北欧の国々は)ヨーロッパの強国が近くにあるコンプレックス、
冬の季節が長いという厳しい環境が目の前にあり、合理的に生活する知恵を身につけねばならなかった。
しかしそのリアリズムに終わらずに、ロマンチシズムとリアリズムを共存させた北欧モダニズムを生んでいる。
アスプルンドの建築にはその精神が顕著にあらわれている。
モダニズムは表面的なデザインの面で語られることが多いが、
本来はもっと奥行きのあるものではないかということを教えられる。


質疑応答のところで、森の墓地の十字架について挙がった。
アスプルンドは不要だとしていたが、施主側の意向を汲んで設けられたというエピソードについて。
川島氏はアスプルンドは「森に還る」という空間をつくりあげたことに相当自信を持っていて、
それがキリストの救済という意味にすりかわってしまうことを避けたかったのではないかと回答。
けれどもその場面の印象という面からはあの十字架は意義がある、と桐原氏がコメント。


長々と書いてしまったけど、村野藤吾への影響とか他にもいろいろあって、
ほんとにアスプルンドって深いんだなあと感じさせられた。同時に建築の奥行きの深さも。
ところがそれなのに私は「建築家グンナール・アスプルンド」展の方を時間がなくて観に行ってない。
この日は京都国立近代美術館のプライス・コレクション/若冲と江戸絵画展も行くはずだったのに。
近いようで遠い京都です。
来週スフェラの永山祐子さんのアーティストトークを予約しているので、
そのときにまとめてまわれるといいんだけど。(あまり詰め込むのは良くないけどな。)


以前も紹介しているけれど、改めてグンナール・アスプルンドのHPを貼っておく。
http://www.aalab.com/asplund/
写真は多分吉村氏のものだと思う。
松隈氏が「私のアスプルンドのイメージが吉村さんの写真で出来上がってしまった」と冗談でクレームをつけられたほど、
本当に対象をよく知って、本当に好きで撮られていることがよく分かる。