《豊田市美術館》

この日は日帰りで名古屋へ。


去年の終わり頃に行ったところだったけれど、どうしても訪れたくなったのは、
秋吉風人さんという作家の方の新収蔵作品が展示されていたから。
先月私は秋吉さんの「on a peaceful holiday」という展覧会で、
制作現場の映像と作家さんがひとつのギャラリーの空間に同居している不思議な体験をした。
その中のひとつの映像はある作品を制作したあとのアトリエの風景が映されていて、
それじゃあその作品を実際に観てみなきゃ片手落ちなんだろうなあというのが動機になった。


土曜日だったけれど企画展が行われていないせいか館内はひっそりとしていて、観客もまばら。
ちょうど入館したのがガイド・ボランティアの方とまわるギャラリー・ツアーの時間で、
ガイドの方お二人と私だけでまわらせてもらうことになって、それが約2時間。
私が関西から来ていたせいだと思うのだけれど、長い時間かけておつきあいいただいたのだった。
常設展だけでもじっくり観ているといろんなことを学ぶ。
その中で印象に残った展示室のことを書き留めておく。
(写真は展示風景のみ掲載してもよいということだったので、作品の詳細は撮っていない)


展示室5は常設企画展「浅野弥衛を視る



主に「ひっかき」の技法を使った白黒の作品が並ぶ。
「ひっかき」って、幼い頃に画用紙に色とりどりのクレヨンで下絵を塗って、
その上に黒色を重ねて釘などのとがったもので線を削ったのと同じことなんだけど、
浅野さんが取り組まれていた手順には油絵具の色番が決まっていたり、
拭き取りの効果が挟まれていたりする。
その技法の説明のための展示ケースの道具を眺めてるとひとつの精神世界が出来上がっていて、
そのまわりに並ぶ30点近くの作品もそれに呼応して、静かな光を放っているような感じがした。



同じ1階の別の入り口に移動して、展示室1へ。

写真はその展示室横の3階への階段から見下ろしたところで、
写っているのは小清水漸さんのオブジェと田中敦子さん、草間彌生さんの絵画作品。
そして3階の廊下には秋吉さんの金色の絵画作品が並んでいて、

その奥の展示室3に入ると

秋吉さんの立体作品と石原 友明さんの牛革のオブジェが目に入ってくる。

写真では省いてしまったのだけれど、
もちろん途中にはオラファー・エリアソンのランプや他の作品もあって、
これらの一連の流れを眺めながら歩いているのがとても心地よかった。
それは軽い感じの感覚ではなくて、私の心の置き所をひとつひとつ確認できるような、
そんな居心地の良さだったのだけれど、上手く表現しきれない。


ちなみに冒頭で書いていた観たかった作品というのは、
最後の写真の左側にある《A Certain Aspect (Mountain)》と名付けられてる立体作品。
四脚に載せられている45センチ角の板の上で山形に盛り上がっているのは、なんとすべて油絵具で、
大量の絵の具をペインティングナイフで形づくっていったそう。
こんな発想をしてしまうところにただただ驚くばかり。
関西のギャラリーで写真は見せてもらっていたけれど、
実際目にしてみると、作品の凄みを感じてしまう。
そして前述のアトリエ風景の映像とを結びつけていくと、
なおいっそう「制作中の作家」というものに興味が注がれていくのだった。


秋吉風人さんという方は、ギャラリーでお話ししたかぎりではとても穏やかで、
この作品を制作してる様子はなかなか目に浮かばないところがある。
でも私のいろんな質問に柔らかく答えてくださった最中にも、
時折譲らない動かない意志を感じることがあって、
それが作品をつくっていく原動力になっているのかなあと勝手に想像してみたり、
でもやっぱり飄々とひらめきでつくり始めてしまうのかもしれないと思い返したり。
それにしても学生時代につくられた2作品が美術館のコレクションになっているのがすごい。
いつになるか未定ということだけれど、次回の個展が楽しみ。