内藤廣さんの講演会(JIAまちづくりセミナーin綿業会館)

早めに退社して隣の駅の綿業会館へ。
今夜は数ヶ月前から楽しみにしていた内藤廣さんの講演会が行われたのです。


お話で一貫していたのは、近刊の『内藤廣対談集-複眼思考の建築論-』の紹介文でも書かれている
「建築家になろうとしてはいけない」という視点だった。

  • 建築学部に進みながら武装解除人の道を選ばれた伊勢崎賢治さん。
  • 世界紛争で悲惨な状況を目にした7、8歳ほどの子供たちが、将来なりたいものに医者や教育者を挙げていること。(NHKドキュメンタリー「戦争でパパを失って」)
  • 東京大空襲の焼け野原になにをつくるかという戦後の話のときに、大谷幸夫氏が「建築は人間の生存に関わるものです」と言われたこと。(INAXのインタビュー)
  • コロンビアのスラムにある図書館を見学した際に、子供達が夜遅くまで、そして施設に感謝しながら利用している光景に出会ったこと。(内藤さんも別のスラム地域の図書館の設計に関われるそう)

そこで内藤さんは、建築はもっと切実なところにつながって立ち上がるものじゃないか、
人間の尊厳の深いところにつながっているのが建築の在り方じゃないかと問題提起される。
"現在の日本には先に挙げられた深刻な状況がないように思われるけれど、
実は「戦場は間近にある」のであって、過疎化が進む地方都市はまったなしで悲鳴をあげている。
今の建築家たちは目線が違うんじゃないか。
地方の精神的・経済的な問題を解決して、
その都市の誇りとなるような建物を設計することに意義を持つべきじゃないのか。"


内藤さんが'94年頃から取り組まれているプロジェクトに、宮崎県の「日向駅連続立体交差事業」がある。
内藤さんは地場の杉材を使った構造体の駅舎の意匠設計を担当されていたのだけれど、
ワークショップやシンポジウムを開きながら、他分野の専門家と一緒になって、
地域の人が参加できるような状況をつくりあげていったことを、スライドを使いながら説明。
これほど建築・都市・土木がいい形でスクラムを組んだ事例はなかったそう。
私はこのエントリーを書いている途中で、「ひゅうが便り」というブログを見付けたのだけど、
地元の人はもちろん、引率で動いている官の人の姿勢がしゃんとしているように見えた。
むしろ内藤さんたちは、その輪の中のひとつに過ぎないぐらい。きっとこれが理想型。
杉材の屋根梁が組まれている写真も美しいし、木材の場合の安全ネット使いにも興味津々。
結果としてこのJR日向市駅国土交通省鉄道局長賞を受賞。
鉄道開発事業の好例として見学者が訪れているそう。


いい街ができるかどうか?デザイン・意匠になにができるか?
内藤さんが土木に移ったのは建築の概念を広げるためにやっている。
建築っていうのは広い。
モノと人間をつなぐ、テクノロジーと人間心理をつなげるためにあるのだから、
もっと広い視野を持ってやってほしい。
地方の街づくりに情熱を注げる人間が増えればもっと日本は良くなる。


私なりに講演をまとめてみたけれど、力及ばず。
でも内藤さんのおはなしって、設計分野だけじゃなく、もっと一般にも語られるといいのにと思う。



講演の機会に、途中になっていた対談集を読了した。

内藤廣対談集―複眼思考の建築論

内藤廣対談集―複眼思考の建築論


ちょうど再開したページから、《島根県立古代出雲歴史博物館》のシンボルマークランドスケープのデザインを手がけられた方々も登場して、
通勤電車の中、読みながらひとりで盛り上がってた。
なにも分からないまま《福井県立図書館》に興奮していたときを思い出してみたり。
風の丘葬斎場》への気持ちがなお強くなる。
この本も建築コーナーに置かれるだけなのが勿体ないなあ。